パイは、軽くて歯切れがよく、見た目にボリューム感がある食べ物です。その食感を得るには、生地層と油脂層の重なり具合が大きく影響します。薄い生地層と油脂層を規則正しく折り重なることで、油脂層と生地層がくっつかず、焼成中に生地から発生する水蒸気や炭酸ガスが層を押し上げて大きく膨れるようになります。

パイ生地の作り方には、一般的に層を作る方法の違いで、折りパイと練りパイの2種類があります。
●折りパイ
生地を折り込む前に冷やしておき、圧延機で延ばした後、油脂(バター)を生地に包み込んで引き延ばしと折りたたみを繰り返します。油脂層を幾重にも重ねた後に再度生地を冷却して休ませ、適当な形状に成形して焼成します。
折りパイは「フィユタージュ」とも言います。
●練りパイ
小麦粉に、あらかじめ小さくカットしておいた油脂を混ぜ込んで、ゆっくりミキシングします。次に再度生地を冷やして休ませ、適当な形状に成形して焼成します。
砂糖などを加えた甘い練り込み生地を「パータシュクレ」、砂糖が入らない練り込み生地を「パータブリゼ」と言います。
砂糖入りは洋菓子のタルトや土台に使われます。砂糖なしはお菓子をはじめ、料理にも幅広く使われます。
 
折りパイ   練りパイ

パイ生地を作るには、生地の温度を低温に保つことが重要です。油脂を折り込んだ後に十分冷やさないと、油脂と生地の物性バランスが悪くなり、積層状態が崩れてしまいます。そのためにできるだけ低温を保つよう休ませることがポイントとなります。また、油脂の折り込みもできるだけ生地を低温に保ち、短時間で作業することが大切です。

一般にパイ生地の基本的な配合は、小麦粉、食塩、油脂ですが、卵などを加えることもあります。油脂は主にバターが使われますが、マーガリンを使用することもあります。
小麦粉は、強力粉と薄力粉を合わせます。割合は、強力粉が50~80%、薄力粉が20~50%くらいが一番バランスの良い配合率です。薄力粉の割合を増やすと、口当たりはよくなりますが浮きは悪くなります。また、洋菓子店の折パイ生地は、小麦粉100%に対して油脂分を80~100%にしていることもあります。

作ったときに問題の無い生地でも、冷蔵保管中に黒褐色の斑点が生地表面に出る場合があります。生地を解凍後、冷蔵保存した場合や、生地を長時間冷蔵保存した場合などによく見られます。
これは、小麦胚乳のカロチノイド系色素(小麦粉本来の淡いクリーム色色素)の酸化が考えられます。非酵素的酸化及びオキシターゼなどによる酵素的酸化が複雑に組み合わされて進行していきます。
この変化は、湿度の影響が大きいので、生地を冷凍した後、冷蔵保存する場合に注意が必要です。解凍後は速やかに使い切ることが、最も効果的です。

パイは、古代ギリシャ・ローマ時代に始まったとされ、肉や果物を直火ではなく、素材の持ち味を逃がさないように小麦粉と油脂を合わせた生地に包んで焼いたのが最初と言われています。
その後14世紀のフランスでフイユタージュ(パイ生地)が登場し、肉や魚、野菜、果物などを包んでオーブンで焼いたパイ料理「パテ」が作られるようになりました。また、17世紀にフランスの菓子職人フイユが、パイ生地を使った菓子をつくったことから「パイ」という名がついたいう説もあります。英語で「カササギ」を意味するPieは、何でもかんでも集めてくるカササギと、何でも包み込んでしまうパイが似ているからという面白い説もあります。

イギリスではパイの歴史が古く、肉、魚、野菜を包んで焼いたパイと、フルーツやクリームをパイの器にのせて焼いた甘いパイ、器にパイ生地をかぶせて焼いたポットパイなどがあります。昔は、フィリング(中身)を入れる器として用いられ、料理ができた時に捨てられたようです。これは、現在のようなオーブン用の型や皿がなかったので、パイがその役割をしていたというわけです。
また、パイの中でもお馴染みの「アップルパイ」もイギリスで誕生したとされています。
フランスでのアップルパイは「りんごのタルト」になります。昔のフランス・オルレアネ地方の田舎町にタタンという姉妹がおり、ある日、デザート用にりんごのタルトを作っていました。焼き上がったところでオーブンから出そうとした時、なぜかタルトがひっくり返ってしまいました。せっかく作ったパイなのにと、口に含んでみたら、なんと裏返しとなって、天板で焼けた表面がうまいことカラメル状になって、なんともいえぬいい味になっていた。それ以来、このお菓子を最初からひっくり返して焼いたことから、「タルト・タタン」と呼ばれ、伝統的なフランス菓子の一つとなっています。